George Michael
今年もまた何処からともなく流れ始めるその歌は
何の違和感も無く静かにゆっくりとこの街にも馴染んで行く
魂の救済を求める弱者の為の
そんな彼の歌
ジョン、残念だけど
戦争は終わりそうにないよ
どれだけ皆がそれを望んだとしてもね
その聞き慣れたフレーズと運命共同体となって
生暖かい風が吹きだす地下鉄の入り口へと吸い込まれて行った僕は
ある広告に写る男に目を奪われ足を踏み出せないでいた
faithという文字
そして
十字架のピアスを付け無精髭を生やし革ジャンを着ている金髪の男
俯いているせいか、その表情までは分からなかったが
お前には信念はあるか?
そう問われている
そんな気がしていたから
僕はさっき買ったばかりの
ゴムで出来た中国製の小さな観葉植物を彼女に届けに行くところ
そして
彼女はきっと
彼女だけはきっと
溜め息混じりに緑色の安っぽいプラスチックの水差しでそいつに水を与えるだろう
列車は僕を乗せ実に単調なリズムを刻みながら走り続ける
とても幸せそうな顔をしながら停車駅で乗り込んで来た男が
そのリズムを掻き消し静寂を残した
プレゼントであろう外国製の椅子を腕に抱えながら
静寂が終わると列車は再び単調なリズムを刻み走り始めた
どうやら夢を見ていたようだ
広告の男も、椅子を抱えた男も
まるで存在しなかったかのように
車内で流れるジザメリの just like honey が気怠い
そして高速の渋滞は果てしなく長い列となり
真っ赤なテールランプが遥か向こうの街の出口まで続く
ベイブリッジが見える頃
車のラジオは海外の偉大なアーティストが亡くなった事を伝え
それから
One More Try
という曲をかけた
maybe just one more try
それも素敵かな
だって
今でもあの椅子が届くのを待ち焦がれている人がいて
それに
僕が居なくなった今でも
彼女はきっと水を与えているのだから
maybe just one more try
聖なる夜に
僕らはまだ旅の途中で
助手席で寝息を立てている君は一体どんな夢を見ているのだろう
それとも
あの日、問われた信念が
君を殺す事
だとするならば
だとするならば、君は永遠に夢を見ることは無いのだろうか
心の中が冷たいよ
それでも多分
もう一度だけトライしてみるよ
そして僕は
そっと溜め息をついた
ジョージ・マイケル に捧ぐ