井上 大輔
風にひとりで
風にひとりで
静かにそっと
指を頬に当て
何故泣くのです
だって
この場所で
ただ私だけが
枯れて行くのかな
異国で育った私
連れて来られたのは
歓楽街にあるストリップ劇場
支配人の男は通常の人間より3倍早く
仕事をするのだとかしないのだとか
赤い服を身に纏い
やたらと私に馴れ馴れしい
けれども
私は心を触れられた気がした
そして
あの日から
私はララァと呼ばれた
今では全てが
遠い記憶の中の
ビギニング
ビギニング
見惚れていた
The Smashing Pumpkinsの
1979の甘酸っぱいメロディーに合わせて
群れから逸れた白鳥のように
哀しげで不器用にポールダンスを踊る君に
だが
確かに誰よりも何よりも艶かしい
美しい物が嫌いな人がいるのかしらと
そのエメラルドグリーンの瞳で
君は僕に問うてるようで
眩い光を浴びながら
銀色のポールを握るその手つきで
しごいてほしい
テカリを帯び半開きになった唇で
含んでほしい
そんな青くさい想像をしていた
それも人の心理なのかもしれない
それとも
ただ出会うのが遅すぎただけなのか
それでも
時は健やかに
愛を育てるだろうか
めぐりあい
めぐりあい
そして
指名をした
ララァと言うのか
そして
二人は運命に弄ばれるように
店のプライベートダンスルームの中で
眼差しを交わし合う
あなたは
とても綺麗な目をしてるのね
守るべき人も
守るべきものも
無いというのに
それは不自然な事じゃなくて?
椅子に腰をかけた僕に跨り
下着を脱ぎながら君は言う
だから
だからって
どうだっていうんだよ
と形の良いやわらかな乳房を
両手で丁寧に触りながら僕は言う
浅黒い肌に
不釣り合いなほど突起した
淡いピンク色の乳首
そっと口づけをすると
君は
あぁ、時が見える
と言い
僕ら二人は大きな波の畝りのような
巨大な光に飲み込まれた
だが
唐突にその時間は終わる
戯言を止めろと言わんばかりに
支配人の男が
プライベートダンスタイムの終了を告げた
そして
次回から使用可能なサービス券を1枚手渡す
彼からの手向けなのだろうか
まるで同志になれとでも言わんばかりに
恋しくて募る思いが
いつまでもいつまでも
空を茜色に染めていた
そして
生命への愛しさに
己の胸を焦がし
その思いが空を染め上げる
ごめんよ
まだ僕には帰れるところがあるんだ
こんなに嬉しい事はない
わかってくれるよね
ララァにはいつでも会いにいけるから
でも
僕はすぐに後悔をする
連絡先くらい聞いておくんだったなと
その思いを知ってか知らずか
こうゆう時慌てた方が負けなのよね
と隣りを歩いている友達のシバテツが
得意の軽口をたたいていたが
その言葉はすぐに
街の喧騒に掻き消されていった
井上 大輔に捧ぐ