Layne Staley

いつもの珈琲と

煙草の紫煙

 

絶え間なく鳴る音楽と

永遠に続くその余韻

 

時に

麻薬と称される

彼の歌声を

あの時

確かに聴いた

 

今ならきっと

僕の方が

咲き始めた桜を見ても

何の感情も生まれない

君の言った通りの

退屈な大人になってしまったのだと

 

 

 

少しだけ汗ばんだ掌が

春先に馴染む午後には

Depeche Mode の Enjoy The Silence が流れる

そんないつもの場所で

君としたとりとめもない会話を思い出す

 

 

サイフォンで淹れたマンデリンが

この世で一番美味しい珈琲なんだと君は言う

それから

僕にする時のように

器用に両手を使いながら

巻いたばかりの煙草に火を点けた

そして

そのバージニア葉の焼ける匂いと

この珈琲の相性が凄くいいのよと

何の屈託の無く僕に微笑んでから

君は最近聴き始めたばかりだと言う

[ Alice In Chains ]

と言うバンドについて静かに語り出す

まるで

固くなった僕の男性器を咥える時のように

ゆっくりとそれらを味わいながら

 

 

そして重ねた

お互いの指先

 

 

 

なのに

 

 

 

あれから君はシアトルで暮らしているという

ドメスティック気味な空模様と

朝から降り続く霧雨に飽きたら

そっと思い出してよ

あの時飲んだマンデリンの味と煙草の香り

そして

麻薬と称される

彼の終わることのない歌声を

 

 

そして僕は

カップの底に僅かに残るそれを飲み干して席を立ちながら

正直に生きて来れなかったと

何度目かの

軟らかな後悔をする

 

ただ君に

探して欲しかった

それだけだったんだ

暗いこの場所から

ただ

連れ出して欲しかった

光りに満ちているであろう

そっち側へと

 

そして

 

再び洪水に飲まれ

大きな過ちを犯した

 

Would?

 

 

だけど僕は

この感情の呼び方を

まだ

知らない

 

あの時

君が流した涙の理由も

 

 

 

そんな

忘れられない日々に

 

 

 

 

 

 

 

レイン・ステイリー に 捧ぐ