アベフトシ

 

 

 

 

赤みのかかった

月が昇る時

これで最後だと

僕は聞かされる

 

 

 

 

 

 

真夏の朝

激しい雨が降り続く

だけど

その日の午後には

強烈に暑くなった

 

まだ時間に余裕がある

浅煎りの珈琲を飲み

煙草を巻く

そして

これから会う

君の事を想った

 

ブルーのアイスキャンディ

蟻が群がっている

公園のベンチに捨てられたまま

無惨に溶け出し

 

しばし

視線を君の口元へ

想像していたのはそう

そのアイスキャンディを頬張る君

口に入ってくる蟻を

気にも留めずに

美味しそうに口に含んだ

 

 

あぁ、何て美しいのだろう

君は

僕だけに

それを

見せてくれる

 

あぁ、何て歪なのだろう

君は

僕だけに

それを

教えてくれる

 

 

 

 

 

 

乾きはじめた水溜まり

木々から立ち昇る水蒸気の匂い

レコードを聞こう

さっき買ったばかりの

もちろん

二人で

シャワーを浴びてから

 

黒いフェイクレザーのソファ

君は一瞬

何かを思い出したかのように笑う

そして

器用な手つきで

静かに露出させた

僕の下半身

 

隆起した硬い男性器

無駄の無い所作で口に含む

口元から伝い落ちる唾液

時々

僕と目を合わせながら君は

ゆっくりと

優しく

頭を上下に動かし始めた

 

小刻みに揺れる

しなやかな髪

それを優しく撫でる

大量の精液

そのほとんどを

君は口の中で受け止め

また一瞬

何かを思い出したかのように

笑った

 

 

あぁ、何て完璧なんだろう

君は

僕だけに

いや

他の誰かにも

そうやって

 

あぁ、何て屈辱なんだろう

君は

僕だけの

いや

他の誰かの

オモチャ

 


それでも

レコードはまだ4曲目の途中で

世界の終わりについて歌い続ける

 

身悶えるように

赤みのかかった

カッティングギターの音色

それが

やけに耳心地よかった

 

 

 

 

 

 

君は

いつものように

パンを焼き

紅茶を飲む

そうやって

何事も無かったかのように

何かを待ち焦がれている

 

そして

 

相も変わらず

何かが二人を見ている

再び

薄暗い部屋に

君の吐息だけが響く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


世界の終わり

それは

君が去った事なのだと

赤みのかかった月を見ながら

僕は静かに悟った

 


それから何度も

あの時と

同じ季節がやって来て

その度に僕は

君の事を思い出し

やわらかな後悔をする

 

 

 

 


朝から降る雨は

暫く止みそうにない

レコードはもう4曲目の途中で

聞き覚えのあるギターの音が

薄暗い部屋に

響いていた

 

 

 

 

 

 

アベフトシに捧ぐ