Sid Vicious
その日は冬にしては珍しく
窓際に柔らかな日差しが差し込むような暖かい朝で
それは子宮の中に居た頃も
こんな暖かさに包み込まれていたのだろうかと
そんな想像をさせた
死ぬにはもってこいの日
とにかく
もう一度だけ
最後にもう一度だけ
アレをキメて
どこまでも崇く昇れば
辿り着けるだろうか
記憶の中にだけ存在する聖地
そんな場所へ
スプーンと注射器
茶色い砂糖みたいな
そんなものに願いを込めて
震える小さな背中は
思い出のレコードと共に
焼かれながら朽ち果てて行く家を
ただ呆然と見続ける事しか出来なかった
真冬にセーターを編んでくれたおばあちゃんの
今では誰も寄り付かなくなった
薬品の匂いで満ちた
灰色の病室
赤錆で薄汚れた玄関ドアと
僕の世界をすっかり変えてしまった
力なく笑いながら去って行く
君の愛くるしい残り香
人目を避ける為だけに潜り混んだベッド
僕らはただ
快楽だけを貪りあい
体液の染み込んだ白いシーツだけが残った
チェルシーホテルの部屋
どうやって君の事を誘惑して
街の外に連れ出そうか
そんな日々も突然に終わりを告げ
先に逝ってしまった君と交わした約束
そして
死の取り決め
でも
そのままでいい
ありのままが
それこそが何よりも尊い
だから
レザーのジャケットとブーツを死装束に
そして
Gimme A Fix
と一言添えてくれまいか
さて
最後の時がもう近い
振り返れば色々あったが
それが自分の道だった
少しくらい後悔はあるさ
別に話す程の事でも無いがね
ここは不思議だ
居心地が凄くいい
透明な液体に満たされたこの空間は
まるで冬の朝の柔らかな光みたいに暖かい
目はまだ何かを捉える事が出来ないが
遠くから
遥か遠くの方から
名前を呼ばれた気がした
自分で歩き始めるには時期がまだ早い
だから
もう少し
ここに居させてもらうとするかね
シド・ヴィシャス に捧ぐ